
2019年に初演され、その壮大なスケールと原作漫画全7巻を完全舞台化するという挑戦で世間を驚かせた『新作歌舞伎 風の谷のナウシカ』。
尾上菊之助演じるナウシカや、中村七之助演じるクシャナの美しさが話題になる一方で、観劇したファンの間で「裏MVP」「影の主役」と絶賛されたキャラクターがいました。
それが、片岡亀蔵が演じた「クロトワ」です。
ジブリ映画でもおなじみの、あの少しひねくれた参謀役を、伝統芸能の重鎮が演じるとどうなるのか。
「アニメそのまますぎる」
「いや、アニメを超えている」
SNSを中心に評判を呼び、歌舞伎ファンのみならずジブリファンをも唸らせたその怪演ぶり。
この記事では、片岡亀蔵によるクロトワ役の凄みと、なぜそこまで評価されたのか、その理由を徹底的に深掘りします。
まだ動画や画像でしか見たことがないという方も、この記事を読めば、きっと全編を通して観たくなるはずです。
「風の谷のナウシカ」歌舞伎版!片岡亀蔵が演じた「クロトワ」とは?
そもそも「クロトワ」というキャラクターは、英雄的な主人公たちが活躍する物語の中で、非常に人間臭いポジションにいます。
トルメキアの皇女クシャナの参謀でありながら、平民出身でのし上がろうとする野心を持ち、時には長いものに巻かれるズル賢さも見せる。
そんな複雑な役どころに、なぜ片岡亀蔵が抜擢され、ハマったのか。
まずはその配役の妙について解説します。
アニメ版でおなじみの「憎めない中間管理職」
原作やアニメにおけるクロトワは、エリート然としたクシャナとは対照的に、どこか俗っぽく、視聴者が感情移入しやすい「中間管理職」的な悲哀を持っています。
上司(クシャナ)の無茶ぶりに振り回されながらも、したたかに生き抜くその姿は、物語の清涼剤的な存在です。
歌舞伎という格調高い舞台において、この「俗っぽさ」を表現するのは容易ではありません。
重厚すぎればクロトワの軽妙さが消え、軽すぎれば舞台の格が下がってしまうからです。
片岡亀蔵だからこそ出せた「軽妙さと重厚さ」のバランス
そこで白羽の矢が立ったのが、名脇役として鳴らす片岡亀蔵でした。
彼は古典歌舞伎において、悪役から道化役(チャリ役)まで幅広くこなす技術を持っています。
この「強面(こわもて)なのにコミカル」という亀蔵本来の持ち味が、クロトワというキャラクターに奇跡的な化学反応を起こしました。
単なるアニメのモノマネではなく、歌舞伎の身体表現を用いながら「クロトワの魂」を舞台上に現出させたのです。
【評判】「アニメ超え」と絶賛された3つの理由
実際に舞台を観た観客からは、「想像以上のクロトワだった」「違和感が仕事をしていない」といった評判が相次ぎました。
なぜこれほどまでに絶賛されたのか。
その理由は大きく分けて3つあります。
1. 声優・家弓家正へのリスペクトを感じる「声」の再現度
最も話題になったのが、その「声」です。
アニメ版でクロトワの声を演じたのは、名優・家弓家正(かゆみ いえまさ)氏。
独特の粘り気と渋みのある声はクロトワの代名詞でしたが、片岡亀蔵のセリフ回しは、この家弓氏のニュアンスを完璧に捉えていました。
意図的に寄せたのか、役柄を突き詰めた結果似たのかは定かではありませんが、第一声を発した瞬間、客席のジブリファンは「本物がいる!」と度肝を抜かれたのです。
さらに、歌舞伎役者特有の腹から出る発声が加わることで、セリフの通りが良く、広い演舞場の隅々までその皮肉屋なセリフが響き渡りました。
2. 歌舞伎ならではの「チャリ(滑稽)」とアドリブ
歌舞伎には、シリアスな物語の合間に観客を笑わせる「チャリ場(滑稽な場面)」という演出手法があります。
片岡亀蔵は、このクロトワ役を現代のチャリ役として解釈し、随所に絶妙なアドリブやコミカルな動きを取り入れました。
シリアスな展開が続く7時間近い長尺の舞台において、亀蔵クロトワが登場するシーンは、観客がふっと息を抜いて笑える貴重なオアシスとなっていました。
「ここで笑わせてほしい」という観客の期待に120%応える間(ま)の良さは、ベテランの技以外の何物でもありません。
3. 皇女クシャナ(尾上菊之助)との名コンビぶり
クロトワの魅力は、主君であるクシャナとの関係性において最大化されます。
歌舞伎版でクシャナを演じた尾上菊之助の、冷徹かつ美しい立ち振る舞いに対し、片岡亀蔵のクロトワは、へりくだりながらも虎視眈々と隙をうかがう絶妙な距離感を保っていました。
この二人の掛け合いは、まるで長年連れ添った漫才コンビのようなテンポの良さがあり、物語の後半、二人の間に信頼関係が芽生えていく過程には、多くの観客が胸を熱くしました。
あの名シーンはどうなった?画像や動画で確認したい見どころ
片岡亀蔵演じるクロトワについて、具体的なビジュアルや名シーンが気になる方も多いでしょう。
ネット上で画像や動画を探している方のために、特に注目すべき見どころをテキストで描写・解説します。
視覚的再現度:軍服とヘアスタイル
ビジュアル面においても、再現度は完璧でした。
トルメキア軍の装甲服を模した衣装に、クロトワの特徴である、少しボサッとしたオールバック気味の髪型。
これらが歌舞伎の化粧(白塗りではなく、役柄に合わせた肌色に近い拵え)と違和感なく融合していました。
「2次元のキャラクターが3次元に降りてきた」という表現がこれほどしっくりくる例は稀です。
名セリフ「腐ってやがる…早すぎたんだ」
クロトワといえば、巨神兵を前に呟く「腐ってやがる…早すぎたんだ」というセリフがあまりにも有名です。
歌舞伎版でももちろんこのシーンは再現されました。
片岡亀蔵の渋い低音で放たれたこの一言は、単なる状況説明を超え、人間の業(ごう)深さを感じさせる名シーンとして、観客の記憶に刻まれています。
実際の映像を見る方法
「文章での説明だけでなく、実際の動く姿が見たい」
そう思われた方は、YouTubeなどの断片的な動画ではなく、公式に発売されているパッケージで全編を通して鑑賞することを強くおすすめします。
現在、『新作歌舞伎 風の谷のナウシカ』はBlu-rayやDVDが発売されており、ディレイビューイングとして映画館で上映されたクオリティの高い映像で楽しむことができます。
片岡亀蔵の細かい表情の変化や、アドリブの空気感は、高画質な映像であってこそ真価が伝わります。
まとめ:片岡亀蔵のクロトワは歌舞伎とジブリを繋ぐ架け橋
今回は、片岡亀蔵の当たり役の一つとなった、新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』のクロトワ役について解説しました。
記事の要点をまとめます。
-
配役の妙: 名脇役としての実績とコミカルな持ち味が、クロトワという役に完璧にハマった。
-
アニメ超えの評判: 声優・家弓家正氏を彷彿とさせる声と、歌舞伎の身体表現が融合し、絶賛された。
-
観客のオアシス: 緊張感のある舞台の中で、確かな技術に裏打ちされた「笑い」を提供した。
-
映像での鑑賞: その細やかな演技や画像的な美しさは、ぜひ公式の映像作品で確認してほしい。
片岡亀蔵が演じたクロトワは、単なるキャラクターの再現にとどまらず、歌舞伎という伝統芸能の懐の深さを証明する存在となりました。
ジブリファンが歌舞伎に興味を持つきっかけとして、これほど最適な入り口はありません。
まだご覧になっていない方は、ぜひ映像でその「怪演」を目撃してください。
きっと、片岡亀蔵という役者の底知れぬ魅力に引き込まれるはずです。

